一人親方は会社に所属していないため、一人親方特別加入制度による労働者災害補償保険、いわゆる労災への加入は任意であって義務ではありません。
ですが、平成29年度から国土交通省が労働災害時に保障を受けられる適切な社会保険に加入していない者に建設現場への入場を許可してはならないと元請け業者に通達しているのをご存知でしょうか。
一人親方は社会保険に入らないとダメなのか?
まず、国民健康保険(国保)は個人に負った怪我や病気を補償するもので、労災は労働中(通勤時を含む)の怪我、労働を原因とする病気を補償するものと用途が分かれているため使い分ける必要があるのを覚えておきましょう。
一人親方が仕事中に怪我をした場合、元請に雇用されているわけではありませんが実態はそれに準ずるため原則としては元請が責任を負い労災の申請をします。
ですが、ここで注意したいのは元請が依頼した一人親方の怪我に対して責任を負うのは「原則として」であり「完全」にではありません。
裁判にまで至るケースでは一人親方側の責任と判断されることも有りうるのです。
自分は一人親方として元請に依頼されて仕事をしているのだから、何かあっても元請の労災が適用されると思っていると大変なことになりかねません。
ですから、自分自身がきちんと労災に加入してもしもの時に備えておく必要があります。
社会保険に入っていなかった場合の判例
ここで、最も典型的な労災未加入の一人親方と元請が法廷で争った実際の判例を見てみましょう。
マンション建設一次下請け会社専属大工Aさんは現場で被災。
しかし、一人親方特別加入制度に加入しておらず労災補償が受けられなかったため元請に労災適用を求めて裁判を起こした時の判決です。
平成19年6月28日最高裁第一小法廷
- 工事に関する工法や作業手順を自己裁量でできた
- 事前連絡をすれば労働時間や休みを自由に調整できた
- 他の工務店と仕事をすることを禁じられていなかった
- 完全な出来高払いを中心に報酬を決めていた
- 個人で所有している一般的に必要な道具類を現場に持ち込んで仕事をしていた
これらの事由により、当該大工(一人親方)が労働基準法、労働者災害補償保険法上の労働者には当たらないものとするという判決でした。
つまり元請との雇用関係は認められないので自己責任において対処するようにという判決であり、この一人親方の怪我は労働災害に当たるため国保は使えず、結果として治療費等を全額自己負担で賄うことになるわけです。
他の似たような事案では、事故の原因と状況により元請と一人親方の責任比率が3:7とされた例もあります。
一人親方は自分が事業主で労働者ですから各種経費のやりくりを考えると義務でないなら未加入で構わないだろうと考えてしまうのでしょうが、この判例のように元請の責任には当たらないとされたら何の補償も受けられなくなります。
まとめ
いかがでしたでしょうか。判例をみるとお分かりいただけるかと思いますが、一人親方が一人親方特別加入制度を利用せず仕事をするのは、労働災害において大きな不利益を被ることがあるというリスクをはらんでいます。一人親方特別加入制度で労災に加入し、安心して現場に入れるようにしておきましょう。