建設業界における労働防止対策の優先基準(2018年度)として、建設業界で最も一般的な死亡事故である「墜落・転落」を防止するためにフルハーネス型安全帯を着用することが義務付けられました。
【足場安全帯】フルハーネス型安全帯の義務化について
厚生労働省が2018年度から2022年度までを期間とする「第13次労働災害防止計画」をまとめ、その中で建設業の労働防止対策の重点施策として建設業界の死亡事故でもっとも多い「墜落・転落」を防止するためにフルハーネス型安全帯の着用を義務化することが決まりました。
「労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令」(平成30年6月8日政令第184号)
「労働安全衛生規則等の一部を改正する省令」(平成30年6月19日厚生労働省令第75号)
「安全衛生特別教育規程等の一部を改正する告示」(平成30年厚生労働省告示第249号)
にてフルハーネス型安全帯の義務化に関する法改正がなされています。
いずれも、平成31年2月1日から施行又は適用されています。
また、墜落制止用器具について事業者が実施すべき一連の事項、墜落及び転落による労働災害防止をより一層推進するため、「墜落制止用器具の安全な使用に関するガイドライン」を公表しました。
ガイドラインの内容としては、関係政省令や平成29年6月13日に取りまとめた検討会報告書「墜落防止用の個人用保護具に関する規制のあり方に関する検討会報告書」などを踏まえて、墜落制止用器具を使用して行う作業の適用範囲や、墜落制止用器具の選定、使用方法、点検・保守・保管、廃棄方法などを規定しています。
実は以前からフルハーネス型安全帯の着用義務化は予想されていました。
今後以下のような流れで段階的に現行の胴ベルト型安全帯は着用・販売が禁止されフルハーネス型安全帯に完全移行する予定です。
- 2018年3月 労働安全衛生法の施行令と規則などを改正するための政省令と告示の改正案を発表
- 2019年2月 新ルールによる法令・告示を施行。高さ6.75メートル以上でフルハーネス型の着用を例外なく義務付け(建設業では高さ5メートル以上)
- 2019年7月末 現行規格品の製造中止
- 2022年1月 現行構造規格の安全帯の着用・販売を全面禁止
フルハーネス型安全帯(足場安全帯)が使用される背景
建設業における死亡災害、死傷災害でもっとも多いのは群を抜いて「墜落・転落」となっています。
10年間(平成18年~27年)で、墜落時に宙づりになった際、胴ベルトがずり上がって圧迫され、死亡した事例が6件あります。
安全帯使用時の墜落災害は5年間(平成22年~26年)で170件あり、そのうち
- 宙づり・落下中に梁等に衝突した事例が10%、
- ランヤード切れ・安全帯が脱げた事例が9%、
- 安全帯を使用していたにも関わらず、地上等に衝突した事例が9%
となっています。
U字つり胴ベルト型安全帯を使用していた際の墜落災害は1年間(平成27年)で15件あります。
U字つりランヤードが緩み墜落した事例が33%、フックが外れるなどで墜落した事例が66%です。
こうした墜落災害の現状を見て墜落時の身体保護の観点から、国際基準に適合し、胴ベルト型ではなく、フルハーネス型を原則使用するべきとされたのです。
一方で、フルハーネス型は胴ベルト型と比較して一定程度落下距離が長くなるため、墜落時にフルハーネス型着用者が地面に到達する場合等への対応として、一定の条件に適合する胴ベルト型安全帯の使用を認めることになりました。
また、墜落災害では、安全帯の不使用が多く(95%)、使用時の使用方法が不適切なもの(80%)が多いです。
このため、墜落防止用保護具を使用して作業する労働者に対する教育も義務付けられました。
平成24年度(2012年度)から平成28年度(2016年度)までの間で20%の減少を実現してはいますが、「第13次労働災害防止計画」ではさらに15%の減少が目標となっています。
その目標を達成するために「墜落・転落」の対策が重要かつ早急であるという判断がフルハーネス型安全帯の着用義務化の背景です。
フルハーネス型安全帯(足場安全帯)の利点
現行の胴ベルト型安全帯に比べてフルハーネス型安全帯はどのような点で優れているのでしょうか?
安全性を高めるその特徴もしっかり抑えておきましょう。
墜落阻止時の衝撃荷重を分散できる
胴ベルト型の場合、腰に1本のベルトを装着するため墜落阻止時に体が抜け出してしまうリスクや、墜落阻止時に体がくの字になって胸部や腹部を圧迫してしまうという危険があります。
厚生労働省の統計によると2006〜2015年の10年間で安全帯で宙吊りになった際に胴ベルトが胸部にずり上がって圧迫され死亡するという事例が6件もありました。
フルハーネス型であれば胴だけではなく肩や腿にもベルトを装着しますので抜け出る心配もなく、宙吊りになってしまった時の体への衝撃も分散することができます。
逆さま姿勢になるのを防ぐ
安全帯を正しく装着して墜落阻止できたとしても、前述したように宙吊り状態になって事故死してしまう事例も数多くあります。
一本のベルトで体を支えているとベルトをつけている部分に荷重がかかり、それによって、呼吸困難やしびれ、顔面の紅潮などの症状が出ます。
宙吊り姿勢が長く続くとさまざまな負担がかかり、救出までに時間がかかってしまうとその間に重篤な状態になってしまう危険性があります。
また、従来の安全帯のように一本のベルトであると落下時の姿勢が安定せず頭部が下に向くことがあります。
逆さまになることは血圧等の負担もありますが、地面との落下距離が短い環境で逆さまになってしまうと頭が地面に衝突してしまうという危険性もあります。
フルハーネス型であればD環の位置がより頭部に近いので逆さま姿勢になることがなく、従来のものより安全です。
フルハーネス型安全帯(足場安全帯)を正しく使用する
フルハーネス型安全帯の利点を見てきましたが、フルハーネス型安全帯を着用したからと「墜落・転落」の危険性が完全になくなるわけではありません。
正しく使用しなければ意味はありません。
フルハーネス型安全帯は墜落阻止時の耐衝撃に優れているのであって「墜落・転落」自体を阻止するものではありませんので、正しく着用するのはもちろんのこと、安全帯取付設備の確保やフックの設置の仕方・取付位置などもしっかりと教育・訓練する必要がありますので覚えておきましょう。
以下に厚生労働省が発行している「正しく使おうフルハーネス」のマニュアルを掲載しておきます。
フルハーネス型安全帯はの正しい使用方法や安全についての理解を深めるためにしっかり目を通しておきましょう。
まとめ
今回は足場安全帯(フルハーネス型安全帯)の義務化について詳しくご紹介いたしました。
足場建設作業作業での事故で大半を占める墜落災害について、安全帯の不使用や不適切な使用方法、また国際規格に適合しない安全帯をなくすことを目的としてフルハーネス型安全帯の着用が義務化されました。
平成31年2月から適用される法令により、フルハーネス型安全帯の着用が義務化され、フルハーネス型安全帯を着用して作業する労働者への教育が義務付けられるようになりました。